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FICTION

かなりすごいドえらい絵画を見たんだけど!

 ちょっと聞いてよ、アタシさっき美術館ですごい絵を見たのよ!
 浅草の雑居ビルの7階にある、なんだか辛気臭い美術館だったんだけどさ、とぐろを巻いた大蛇がこっちをじっと見てる、かなりすごい絵だったわよ!

 なにがすごいって、それはもう、もはや大便じゃん!
 お昼にカツ丼を食べたばっかりで、お腹がいっぱいだったから眠かったんだけど、その絵を見た瞬間、すっと胃腸が軽くなって、眠気なんかもう吹っ飛んじゃった。

 それでもアタシは絵をじっと見つめた!蛇を睨んだ!
 暑くなる美術館内、熱くなるアタシの心。椅子から立ち上がった美術館職員が、アタシの腕を掴んだ。

「すみません、こちらへ」

 アタシは、熱くなった、そしてこわばった身体を、引きずられるようにして美術館のバックヤードへ連れて行かれた。

「すみません、漏れてますよ」

 エレベーターガールが《上へ参ります》という時にしてみせる、あの手のジェスチャーをしながら、職員は私の目をまっすぐ見た。

 そこからの記憶は無く、気がついたら雷5656会館の前で、エレベーターガールのジェスチャーの体勢をとって、仰向けで倒れていた。

 私は上下グレーのスウェットに着替えていた。あれ、いつ着替えたのかしら。

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FICTION

今後ずっと一生、晴れ渡ってくれていいのにね?

金曜日の夜に飯田橋あたりで飲んで、うとうとしながら電車に揺られて帰ってくる。初春の駅前にはぬる〜い風が吹き抜ける。寒いよりは、まあねえ、良いんだけど。アタシの街は、そりゃ冴えないところもあるけれど、でもめちゃ良い一面もあるんだから。

川上から流れてくる正体不明の水たちにスイカの果汁を混ぜてみる。この両手には収まりきらずに溢れていったスイカの爽やかな果汁も、この水路を流れていくアイツたちの、膨大で異常な量には負けちゃうんだもんね。つらいよね。

めちゃ良い一面。それは、この街は晴れの日が似合ってるってこと。スイカの果汁を萎縮させる川面に注ぐ太陽の光が、街の隅々にまで反射していって、この街をキラキラさせてくれちゃうんだから。そりゃもうすごいよ。一度でいいからさ、アンタもこの街に来てみない? そんときはもう、ガンガンに晴れていてほしいね。いや、もうさ、今後ずっと一生、晴れ渡ってくれていいのにね?

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今夜は、ドレッシーなんだから

 土曜の夜には、世界中の鐘が鳴り響く。別にアタシは綿矢りさに憧れているわけじゃない。あいつがアタシのことばを先取りしているだけなんだから。レキシジョウのイダイなヒトビトも、みんなアタシと横一線。レキシは縦に流れるんじゃない。広い野原に生える小さな花たちみたいに、同じ地平から風にそよいで育っていく。

 今夜のアタシはひとあじちがう。赤い夕暮れには退場してもらっちゃうから。アタシは濃紺の鳥。土曜の夜空を東へ飛んでいく。別に笑ってもいいんだからね。だってさ、今夜のアタシは無敵なの。今夜は、ドレッシーなんだからね。

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アタシ、乗り換えるね!

 都営三田線三田駅、上り線のホームでは、神輿を担いだ男たちが酒を煽りながら大声で合唱していた。少なくとも500人はいるだろう。いや、分からない。駅のホームにどれくらいの人数が収まるかは、見当がつかない。
 年末年始のJR東京駅で、一度だけ帰省ラッシュのピークに出くわしたことがある。23番線のホームに上がるための階段も、その100メートルほど手前で、すでに流れは止まっていた。約30分かけてホームまで上がったところ、戻ることも進むこともできなくなって、アタシは目を閉じて寝てしまった。
 都営浅草線からこの三田線へ乗り換えるために、浅草線を降りて三田線への連絡通路を歩いているとき、アンジェラ・アキの「サクラ色」と似たような旋律が、地鳴りを伴って聞こえてきたのは、アタシの頭がおかしくなったからじゃなかったんだ。男たちが合唱していて、良かった。だって、もしこれが幻聴なりなんなり、そのへんのやばいやつだったら、アタシ、もうどうしたらいいか分かんなくなっちゃうだろうから。